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● お箸弾き・こぶし弾き・チョップ弾き

ピアノのいろいろな弾き方について書きます.…と言っても,正統派の弾き方ではないものについてですが.

ひとつ目は,英語で“Chopsticks”と呼ばれる弾き方です.“chopsticks”とは箸のことです.日本語では「お箸弾き」と言うことがあるようです.両手のそれぞれの指一本ずつだけを使って弾く弾き方です.
“Chopsticks”という名前の由来については,二本の指でピアノを弾く手の形が箸のようだからという説があります.その説の根拠となるようなものを私は見たことがありませんので,その説が正しいのかどうかは判りませんが,二本指だけでも弾けるような簡単な曲が通称“Chopsticks”と呼ばれているのは確かです.

「お箸弾き」する曲の代表例としては「トトトの歌」と「猫ふんじゃった」があります.どちらも,演奏するには指が(最低)二本必要になります.
「トトトの歌」では,最初から (ソファ)(ソファ)(ソファ)(ソファ)(ソファ)(ソファ) (ソミ)(ソミ)(ソミ)(ソミ)(ソミ)(ソミ) … のように,音を 2 つずつ弾きます.かっこは,その中の 2 つの音を一緒に弾くことを表しています.
「猫ふんじゃった」では,たとえば「ねこふんじゃった ねこふんじゃった …」の「じゃった」の箇所で 2 つの音を一緒に弾きます.

「トトトの歌」と「猫ふんじゃった」は,どちらも英語では通称“Chopsticks”と呼ばれています.ただ,国によって少々事情が異なり,アメリカでは“Chopsticks”と言うと,ほとんどの場合「トトトの歌」のことになるようです.そもそもアメリカでは(少なくともこのページを書いている時点では)「猫ふんじゃった」の曲自体がほとんど知られていないようです.イギリスでは「猫ふんじゃった」はかなりよく知られているようです.イギリスでは「猫ふんじゃった」も“Chopsticks”と呼ばれています.

「トトトの歌」と「猫ふんじゃった」以外で“Chopsticks”と呼ばれる曲としては,「ハート アンド ソウル」などがあります.
ただ,「トトトの歌」と「猫ふんじゃった」以外の曲が“Chopsticks”と呼ばれるケースはかなり稀です.なので,その曲を「トトトの歌」か「猫ふんじゃった」と間違えてそう呼んでいる可能性を否定できません.
しかし,ある楽譜配布サイトで 4 つの曲が“Chopsticks”というタイトルで配布されているのを見たことがあります.4 曲の内訳は,「トトトの歌」,「猫ふんじゃった」,「ハート アンド ソウル」と,残る 1 曲は私の知らない曲でした.4 曲とも楽譜を掲示した上で,どれにも“Chopsticks”というタイトルを付けているので,曲を間違えたということはあり得ません.
そのような事例もあるので,頻度は低いものの,「トトトの歌」,「猫ふんじゃった」以外の曲が“Chopsticks”と呼ばれることも,実際にあるのではないかと思っています.
もっとも,「ハート アンド ソウル」は 2 つの音を同時に弾くことが無い(子供が弾くような簡単な編曲の場合の話ですが)ので,お箸は必要ないということで,かえって“Chopsticks”と呼ばれないのかも知れません.

さて,ふたつ目は「指の関節の曲」で書いた,こぶしを使って弾く弾き方です.便宜上ここでは「こぶし弾き」と呼ぶことにします.どんな弾き方かは「指の関節の曲」をご覧ください.
「こぶし弾き」で弾く曲は,多分そこで書いた“The Knuckle Song”だけだろうと思います.しかし,「ドレミ」や「ミレド」のように,隣り合った音を続けて弾く箇所がある曲なら,その箇所が黒鍵の位置に来るように移調すれば「こぶし弾き」で弾くことが可能ですので,他の曲を「こぶし弾き」で弾いてみるのも面白いかも知れません.

ところで,「トトトの歌」は「お箸弾き」する曲の代表と書きましたが,実は「お箸弾き」は「トトトの歌」の本来の弾き方ではないようです.

「トトトの歌」は原題を“The Celebrated Chop Waltz”と言います.“chop”というのは,斧や鉈で木などを切る動作,あるいは骨付きの肉を,包丁を勢いよく振り下ろして骨ごと切るような動作のことです.「空手チョップ」の「チョップ」のことです.

「トトトの歌」は“Euphemia Allen”によって作曲され,1877年に楽譜が出版されたそうです.
いくつかの文献,たとえば“The Book of WORLD-FAMOUS MUSIC - Classical, Popular and Folk”によると,その楽譜には弾き方の指示があるのだそうです.両手を小指が下になるように横向きにして,チョップの動作を真似るように動かして弾くというようなことが書いてあるそうです.
楽譜に書いてあるのですから,「チョップ弾き」が「トトトの歌」の言わば「正式」な弾き方ということになります.

「お箸弾き」で弾く曲の代表と言える「トトトの歌」の正しい弾き方は「お箸弾き」ではなく「チョップ弾き」だというのは,面白いことです.