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● ひふみよいむな

日本では,音階を数字で表記していた時期があります.
日本式の音階名と言うと,普通は「イ ロ ハ」が思い浮かぶと思います.「ハ長調」とか「イ短調」とか言う場合の「ハ」や「イ」ですね.ハ長調での「ド レ ミ ファ ソ ラ シ」は「ハ ニ ホ ヘ ト イ ロ」になります.
数字での表記では,「ド レ ミ ファ ソ ラ シ」を「1 2 3 4 5 6 7」で表します.読むときは「ひ ふ み よ い む な」と読んでいたようです.
たとえば,唱歌「蝶々」(原曲はドイツの童謡)のメロディー「ソミミ ファレレ ドレミファソソソ」を数字表記すると,「533 422 1234555」となります.
ドレミ表記ソ ミ ミ  ファレ レ   ド レ ミ ファソ ソ ソ 
数字表記
読み
古い唱歌集などを見ると,明治の終わり頃までのものにこの表記方法がよく見られます.

壺井栄の小説「二十四の瞳」にこの表記方法が出てきます.「二十四の瞳」は,木下惠介監督で映画化もされています.
その小説の中に,小学校の教師が生徒に「千引きの岩」という歌を教える件があり,そこで教師は歌のメロディーをこの「ひ ふ み」で教えています.映画にもその場面はあります.
ただし,「二十四の瞳」の舞台となった時代にこの表記方法が使われていたということではありません.「二十四の瞳」の物語は昭和 3年から始まります.その頃はもう,この表記方法は多分ほとんど使われていなかっただろうと思います.以下に「二十四の瞳」の該当部分を引用しますが,小説では教師が小学生だったときにはその表記方法で習ったという設定になっています.
先生は声をあげて歌うのである。
  ヒヒヒフミミミ イイイムイ――
 ドドドレミミミ ソソソラソ――と発音するところを、年よりの男先生はヒヒヒフミミミ――という。それは昔、男先生が小学校のときにならったものであった。
  ミミミミフフフ ヒヒフミヒ――


(中略)

しかもその姿勢で男先生は歌いだしたのである。
「ヒヒヒフミミミ イイイムイ はいッ。」
 生徒たちはきゅうに笑いだしてしまった。ドレミハを、男先生は昔流に歌ったのである。しかし、いくら笑われても、今さらドレミハにして歌う自信が男先生にはなかった。そこでとうとう、ヒフミヨイムナヒ(ドレミハの音階)からはじめて、男先生流に教えた。そうなるとなったで、生徒たちはすっかりよろこんだ。
 ――ミミミミフフフ ヒヒフミヒー フーフフフヒミイ イイイイムイミ……

壺井栄 著 「二十四の瞳」より引用

映画の該当場面
「二十四の瞳」の写真
松竹 配給 映画「二十四の瞳」(木下惠介,1954)より引用