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クラリネットの G4 と A♭4 の替え指 かなり昔のことになりますが,クラリネットを吹いてみたくてちょっと練習していた時期があります.(結局ものにはなりませんでした.) その頃ある本で読んだ替え指を紹介したいと思います. その替え指はクラリネットの低音域の最も高い方にある G4 と A♭4 の音(実音,B♭管の場合)の音色を良くするというものです.このふたつの音は貧弱と言うか,ややくもったような音色になりがちですがそれを改善するもので,次のような運指だったと思います.(ベーム式) ただ,記憶がちょっと曖昧で,もしかするとこちらの運指だったかも知れません. 違いは右手小指のキーの部分ですが,記憶では G4 と A♭4 のうちどちらかでは閉じて,もう一方では開けていました.確か当時購読していたバンド関係の雑誌の記事で見たと思うのですが,その雑誌はもう処分してしまって今はもう手元にありません. あまりあやふやなことを書くのも無責任なので,この替え指の載っている運指表がないかウェブで調べてみました. 運指表のページは結構ありますが,この替え指の載っているものはほとんどありません.ひとつだけ,最初の方の A♭4 の運指と同じものが載っているものを見つけました. 「基本の運指より音程が良くなり,はっきりした音になる.」という意味の説明(原文は英語)が付いています.どうやら A♭4 については最初の方で合っているようです.ということは,G4 も最初の方で合っているかな? もっとも私が試したときの記憶では,どちらの音の場合も右手小指のキーについては,開けても閉じてもほとんど差はありませんでした. なぜこの替え指で音色が良くなるのか考えてみたのですが,どうもいい理屈を考えつきませんでした. これらの音で音色が良くないのは,音の共鳴する部分の長さが短いためではないかと思います. 次の図は管楽器の音の振動の様子を表したものですが,多くの木管楽器では A のような振動をするのに対し,クラリネットでは B のような振動をします. 木管楽器では一般に,吹き方を変えたりオクターブ ホール(クラリネットの場合はレジスター ホール)を開けることで倍音を出します. 倍音の振動の様子は次のようになります. 他の木管楽器では波長が 1/2 になるので,音程は 1 オクターブ上がるのに対し,クラリネットでは波長が 1/3 になり,音程は 1.5 オクターブ上がります. 1.5 オクターブ上がることは音域が広くなるというメリットがある反面,管をより短いところまで使わなければならなくなります. G4 や A♭4 は,管の最も上の方にある穴を開ける音なので,音が共鳴する部分がとても短いことになります.そのため充分な共鳴が得られないので,音があまり良くないのではないでしょうか? この替え指の運指を見ると,基本の運指の部分は替え指でも変わっていないことが判ります.つまり A♭4 ではレジスター ホールの位置まで穴を開け,G4 ではレジスター ホールは閉じてその下の穴までを開ける訳ですが,替え指でもその部分は同じで,それに加えてさらに管の中程のいくつかの穴を閉じています. 推測としては,管の中程の部分でも音を共鳴させることによって音質を改善しているのではないかと思うのですが,そうだとしてもこのような共鳴は起きないはずです. 穴を開けたところは自由端になるはずなので,共鳴が起きるとすればこのようなものになるはずです. 基本振動(G4/A♭4)でこのような共鳴をさせるには管の長さが足りないので,もしかすると基本振動ではなく倍音を共鳴させているのかも知れません. 基本の運指の場合の音はくもったような音ですが,くもった音というのは高域の周波数成分が少ない音だと思うので,倍音を共鳴させて高域の成分を補強しているという可能性は,考えられなくもないと思います. 本来の共鳴の部分(マウスピース側)には偶数次の倍音はないはずなので,管の中程でも奇数次の倍音が共鳴しているのでしょうか? しかし,リードの振動には偶数次の倍音成分も含まれているはずです.また,一般に振動が非線形な特性を持つ媒質を伝わると高調波が発生するはずなので,基本振動が管の中を伝わるうちに偶数次の倍音成分が発生することも考えられます.だから偶数次の倍音が共鳴している可能性も捨てきれないように思います. 何れにしろ,これらは素人の勝手な推測の域を出るものではありません. まあしかし,原理がどうであるかは奏者にとってはどうでもいいことですね. このふたつの音がきれいに出なくてお困りの方は,ダメ元で一度この替え指を試してみては如何でしょう. |